問)うつは励ましてはいけないと聞くのですが、どのように接したらいいのでしょうか。
答え)うつは病気であるという認識を持って、身体の病気の時と同じく休養をとれるよう配慮をしてあげて下さい。本人が休んではいけないと思って苦しんでいる場合が多いので、心配に思うことについて相談に乗り、もしまだ受診されていなければ、思いつめて自殺する危険もありますので、専門医の診察を受けるよう勧めて下さい。休むだけでは治ることがなかなかありません。
薬物療法が大変効果がありますので、治療をすればほとんどと言っていいくらい改善します。しかし病初期は特に、薬物の効果が出てくるまでの間、抑うつ気分、不安、マイナス思考、体調不良などが持続しますので、その間をどうしのいでいくかが大きな問題になります。
この時期は、あまり悩み自体を突っ込んで検討するのは控えた方がよく、ある程度回復してから、振り返るようにした方が無難です。
治療をすれば治るという励ましは大切ですので伝えて下さい。ただ治療にはある程度の期間がかかりますので、途中で焦って、仕事や学校をやめようとする方がよくおられます。かえって後悔することの方が多いので、うつの回復の前に重要な決定をすることはさけるべきです。いずれにしても主治医と連携をとって接して下さい。
最近、無意識のうちによく食べるようになり、体重も増えてきたので心配です。過食症でしょうか。
食欲が異常に亢進し,大量の食物を摂取する状態は多食症と呼ばれます。原因として精神疾患,糖尿病などの内分泌疾患,視床下部下垂体系の腫瘍などが問題になりますので、それを見立てる必要があります。精神疾患としての過食症は、短時間内(多くは夜間)に大量の食物をむちゃ食いする点に特徴があり,むちゃ食い中はその衝動を抑えがたく、また過食後も多くのケースでやせ願望や肥満恐怖があり,自己誘発性嘔吐や下剤の乱用などがみられます。嘔吐や下剤乱用のほかにアルコール・ドラッグ乱用,盗み,自傷行為の傾向,衝動的傾向,性格障害傾向などが強くみられるといわれています。また過食症ではうつの合併があり,自殺企図に留意することが指摘されています。
小5の男の子ですが、最近イライラしてよく弟と喧嘩したり、かんしゃくを起こすようになりました。学校の成績も前より悪くなっています。どう対応したら良いでしょうか。
知能障害がないのに学業成績が期待されるほどではない子どもの場合、心理的問題や精神障害,環境的要因が存在することがあります。友人関係で悩んだり抑うつ的であったり,不安が強かったり、教師との関係が不良で学習意欲を失ったり,家庭環境が勉強に不適切であったり,親の勉強させようとする圧力に反発したりなどのことがありえます。個々の子どもでの学習遅滞の要因を把握し,その修正を図っていくことが重要です。また神経症的な症状や状態を呈する子どもたちには、登校拒否,不安状態,爪噛み,抜毛などの神経症症状,うつ状態などの情緒の障害を呈するものがいます。子どものうつの場合、落ち込みよりも不安や不機嫌が目立つ傾向がありますので、持続するようでしたら専門医の意見も聞いてみて下さい。
最近小学生の男の子が、何度も手洗いをして、不潔なことをすごく気にするようになりました。どう考えたらいいでしょうか。
不潔に対する恐怖から特定の物に触れることを恐れる状態を不潔恐怖と言います。症状は、強迫的傾向といって、気にすまいと思っても気にしてしまう傾向があります。極端な場合には著しく生活圏が狭められて、外出できなくなったり、何時間も入浴して体を洗うなどの状況になることもあります。これらの行動は,楽しみや満足を得る目的で行われるのではなく,不安感や苦痛を軽減したり,苦痛や脅威となる状況をあらかじめ回避するという目的で行われるといわれています。その背景に、学校や家庭でのストレス状況があることが考えられますので、それをよく見極め、解消していくことが大切です。治療法として,精神分析療法や学習理論に基づく行動療法,認知療法があり、薬物療法では,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が有効です。
最近授業中に、急におなかが痛くなり、トイレに行きたくなって困り、授業を受けるのがゆううつになってきています。
過敏性腸症候群と思われます。これは腸の運動機能の異常です。症状は腹痛を伴う便通異常で,下痢型,便秘型,その二つの交替型があります。ほうっておくとなかなか治りにくい症状ですので、不登校や乗物恐怖、うつ状態などの心理的,社会的,行動的障害を来しやすいのが問題となります。まれですが、腸の筋肉の過敏性がある症例では,消化管全体の運動機能異常のほか,片頭痛,心因性頻尿,月経困難症などの症状を併発することがあります。潰瘍性大腸炎,クローン病,甲状腺機能亢進症などの病気が潜んでいることもありますので、それを除外したうえで,専門的な診察による心身両面からの診断が必要です。治療は、抗不安薬,抗うつ薬,消化管運動機能改善薬などの薬物療法とともに,心理的、社会的、行動的障害に対するカウンセリングを並行して行なっていきます。
人前で喋らなければいけない場面になるとすごく不安になるので、そういう場所に行くことを避けています。これは性格なのでしょうか。
神経症の一型で、社会不安障害といいます。常識的にはさほど危険とも思われない、ごく普通の対象や状況を、不自然なほど激しく恐れ、自分でもばかばかしいとわかっていながらその恐怖にうちかてず、その対象や状況から身をさけようとします。比較的少人数の集団のなかで他人の視線を浴びることへの恐れが中心にあり、社会状況をさけます。恐怖を感じる状況が人前でのスピーチ、楽器演奏、書字、食事などの社会的行為や、デートなどに限定されたものから、ほとんど全ての社会状況を回避する全般性タイプのものまであり、青年期に好発し、持続するといわれます。性格との関連では、自己評価の低さと批判されることに対する恐れに結びついている面が指摘されていますが、最近ではSSRIなどの薬物の効果が認められています。
5年生になってから朝お腹が痛くなり小学校を休みがちでした。9月から毎日痛くなりいけなくなっています。自分ではいきたいというのです。不登校でしょうか。
不登校は、児童,生徒,学生が、登校をしたがらないか登校の意志はあるが登校できない状態を指します。症状は多彩ですが,多くは頭痛,消化器症状,めまいなどの身体症状を理由に欠席を始め,親や教師の登校のすすめに反抗的になり,自室に閉じこもり怠惰な生活を送るなどといった経過をたどります。入学後間もなくや長期休暇後の発症が多く,また諸外国に比して日本に圧倒的に多いと言われています。未熟な母子関係のための分離不安,未熟な自我で成長に必要な父親像の不足が関係するといった仮説もありますが、個々に異なった状況がありますのであまり枠にはめて考えない方がいいでしょう。治療は,初めは登校することを強要せず,不登校に至った心理的な状況,不安,悩みを聞き,担当教師と協力して家庭と学校の総合的な問題として対処することが必要です。ただその原因に神経症などの精神疾患があることもありますので、長引くようでしたら一度専門家に相談してみて下さい。
発達障害は認知的・言語的・運動的・社会的技能の獲得の障害で、精神遅滞,広汎性発達障害,特異的発達障害に分けられ、広汎性発達障害にいわゆる自閉症が含まれます。以前から、知的には問題なく、仕事にも就くことができるのに、情緒的なコミュニケーションに困難があったり、感情のコントロールがうまくいかなかったりする方々がおられました。その中でパーソナリティー障害の視点から治療が試みても良くならず、その臨床的特徴や経過から発達障害と見なされる症例が増えてきました。このあたりの事情から「高機能発達障害」という見方がされるようになってきたのではないかと思います。いずれにしても専門家に日頃の接し方をよく相談しながら経過を観察していってください。